研究の概要

こちらの資料もご参照ください。)

核融合反応を起こすためには燃料を1億度以上にする必要があるため、燃料は原子核と電子がばらばらになったプラズマ状態にになります。核融合発電炉を実現するためには、この高温プラズマを生成し、閉じ込めておく必要があります。また、現在考えられている核融合炉の出力 \( P_{output} \)はプラズマの密度 \( n \)と温度 \( T \)の2乗に比例する( \( P_{output} \propto n^2 T^2 \) )ので、できるだけ高い密度と温度が求められます

どのような温度、密度のプラズマが生成できるかは、下記のように加熱パワー( \( P_{heat} \))と損失パワー( \( P_{loss} \))のバランスで決まります。

$$ \frac{3}{2}nT = P_{heat} – P_{loss} $$

経済的な核融合炉を実現するには、閉じ込め性能を改善して損失パワーを減らすことが重要です。一説にはプラズマの閉じ込め性能の改善度 \( H \)が上がれば、装置の建設費用は \( H^{1.3} \)に比例して抑制できるという試算もあります。これまでに、様々な閉じ込め改善現象が発見され、それに基づいて核融合炉の概念設計がなされています。今後も高温プラズマの閉じ込めは重要な研究課題です。

ただし、核融合反応を持続させるためには単純に閉じ込めが良ければよいというわけではありません。核融合反応を維持するには、核融合反応領域であるプラズマ中心領域に燃料粒子(水素)を供給する必要がありますが、核融合反応の結果発生する反応生成物(例えばヘリウム)はそれ以上反応を起こさないため、反応領域から適切に排出する必要があります。つまり、燃料である水素は反応領域であるプラズマ中心領域に向かい、逆にヘリウムは外に向かうという粒子の流れ(輸送)ができる必要があります。また、その他の不純物が混入することを避ける必要もあります。核融合プラズマ内の粒子の輸送はプラズマだけでなく、その周辺に存在する中性粒子や、プラズマ対向壁を構成する固体との相互作用を含めた理解が必要です。

本研究室では、プラズマ、中性粒子、固体の相互作用に影響を及ぼすプラズマ対向壁温度を制御できる世界で唯一のトカマク装置であるQUESTを用い、プラズマ中の粒子及び熱の輸送過程の解明とそれらの制御手法の開発を行っています。

また、磁場閉じ込めプラズマは非線形非平衡系であり、乱流のような非常に複雑な振る舞いを示しながら、それらが非線形結合を介して美しい構造を作り出すと言った物理学的にも非常に興味深い現象を内包する研究対象です。現代科学のフロンティアの開拓を目指した研究も進めていきます。

高温プラズマの内部の輸送過程をどうやって調べるのか?

プラズマの閉じ込め、制御を効率よく行うには、熱や粒子の輸送過程を明らかにする必要があります。そのためには高温プラズマの内部での計測に基づき、輸送過程を引き起こす原因を明らかにする必要があります。

プラズマ中の熱や粒子の輸送は主にプラズマ中に発生する不安定性に起因する乱流によって引き起こされていると考えられています。プラズマ中の乱流は密度、電位、磁場の揺らぎを伴っているため、これらを測定することによって乱流の振る舞いや、乱流に伴う熱輸送や粒子輸送を調べることができます。ただし、測定対象が数100万℃の高温プラズマであるため、テスターのように固体のプローブをプラズマ内部に挿入することができません。本研究室では、非接触計測を実現するために、電磁波(レーザー光、マイクロ波)、粒子(イオンビーム)を用いた計測器の開発を行っています。

 プラズマにレーザー光を入射すると、光は電子によって散乱されますが、その散乱光の波長は散乱を引き起こした電子の速度によって変化します(ドップラーシフト)。この変化を測定することにより電子温度を、散乱光の強度を測定すると電子密度を測定することができます。この手法はトムソン散乱計測と呼ばれ、信頼性の高い計測器とされています。

 マイクロ波を入射すると、マイクロ波の波長に応じて決まったプラズマ密度のところで反射・散乱されます。どのくらいの時間遅れで戻ってくるか測定すると、その密度領域がどこに存在するかが分かり、その変化を調べることでプラズマ中の密度の揺らぎが分かります。この手法はマイクロ波反射計と呼ばれます。また、マイクロ波の入射角度を変えることにより揺らぎの回転速度の計測ができ、これからプラズマ中の電場の推定ができるため、プラズマ閉じ込め研究を進める上で、非常に強力な計測器です。

 イオンビームを入射すると、プラズマ中の電子との衝突によってイオン化が進んだあと、プラズマの外に飛び出してきます。この時、プラズマの中に電位分布が存在すると、1価イオンとして電位の山を登り、2価イオンとして電位の山を下りますので、電位1つ分のエネルギーを得ることになります。したがってイオンのエネルギー変化を測定すると、イオン化した点の電位を知ることができます。また、出てくるイオンの数はプラズマの密度を反映し、ビームが出てくる向きの変化は磁場の変動を反映します。これらの量を測定すると、プラズマ乱流に伴う電位、密度、磁場の揺らぎを同時に測定できます。この手法を重イオンビームプローブ(HIBP)と呼びます。これらの物理量はプラズマの閉じ込め研究を進める上で極めて重要ですが、通常は測定することが困難であるため、本計測器により貴重な実験データを得ることができます。

(*)HIBPに関してはプラズマ・核融合学会誌に解説記事があります。

重イオンビームプローブ(HIBP)の概念図

 これらの計測器の開発と、それによる計測結果に基づく下記のような観点でプラズマ閉じ込めの物理研究及び閉じ込め制御研究を進めています。

  • プラズマ中の電場形成の物理機構の解明
  • 乱流、不安定性の励起過程の解明と、それらがプラズマの閉じ込めに及ぼす影響の解明

 また、核融合科学研究所のヘリカル装置(LHD、CHD)や九州大学のPLATOトカマクにおける共同研究も同時に進めています。

高温プラズマをどうやって制御するか?

核融合炉内の高温プラズマは多数のイオンと電子が相互作用するのに加え、周辺に存在する中性粒子やプラズマ対向壁を構成する固体との相互作用を考慮する必要があり、その振る舞いは大変複雑です。そのため、高温プラズマを生成し、できるだけ長く安定に閉じ込めることによって最大限の性能を発揮させるためには、プラズマ中に発生する可能性のある不安定性を抑制するための制御機器、加熱機器、燃料供給や排気装置など、様々な外部機器を統合し、適切に組み合わせて制御する必要があります。本研究室が研究を進めるQUESTトカマクは将来の核融合炉と比べると小さいですが、制御のための磁場発生コイル、加熱機器、燃料供給を備え、かつ他に例を見ない温度制御のできるプラズマ対向壁を有し、長時間の放電が可能であるという独創的な装置です。

 本研究室ではこのQUESTを用いて、将来の核融合炉への応用も視野に入れ、機械学習を用いたプラズマの形状の実時間評価やそれに基づいた制御手法の開発を進めています。主に下記のような研究課題に取り組んでいます。

  • 機械学習を用いたプラズマの位置・形状の実時間同定およびその制御
  • 長時間データ収集および実時間計測
  • クラスター解析による異常検知システムの開発
  • CIP数値シミュレーションによる熱ガス流制御解析
  • ニューラルネットワークによるプラズマ位置制御および時系列予測
  • トカマクプラズマ位置・断面形状の磁気センサーレス制御
  • コーシー条件面法を用いたプラズマ位置/断面形状の再構築
  • 除熱と排気のためのダイバータ配位プラズマの生成と制御

プラズマ断面の画像と、計算によって求められた磁気面の比較

ポロイダル磁場コイルの組み合わせによって作られる様々な磁気面

本研究室が開発及び担当している機器